“自分の感受性くらい”
ばさばさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮しのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
“内部からくさる桃”
単調なくらしに耐えること
雨だれのように単調な…..
恋人どうしのキスを
こころして成熟させること
一生を賭けても食べ飽きない
おいしい南の果物のように
禿鷹の闘争心を見えないものに挑むこと
つねにつねにしりもちをつきながら
ひとびとは
怒りの火薬をしめらせてはならない
まことに自己の名において立つ日のために
ひとびとは盗まなければならない
恒星と恒星の間に光る友情の秘伝を
ひとびとは探索しなければならない
山師のように 執拗に
(埋没されてあるもの)を
ひとりにだけふさわしく用意された
(生の意味)を
それらはたぶん
おそろしいものを含んでいるだろう
酩酊の銃を取るよりはるかに!
耐えきれず人は攫む
贋金をつかむように
むなしく流通するものを攫む
内部からいつもくさってくる桃、平和
日々に失格し
日々に脱落する悪たれによって
世界は
壊滅の夢にさらされてやまない。
知命をこえて
茨木のり子の詩は
時々読み返してみたくなる